
最近私が大好きだった、ニセコの鯉川温泉と定山渓の山水が相次いで閉館しました。
鯉川温泉は私が人生で一番数多く宿泊した旅館です。
明治32年開湯の歴史ある北海道を代表する温泉宿。
初めて宿泊したのが、20年くらい前です。
最初泊まった時は若かった(?)せいもあり、正直建物は古く、食事も肉類が殆どないので、物足りなさを感じました。
所がしばらく経つと、何故か「もう一度行ってみたい!」という不思議な気持ちになったのです。
再訪して改めて観察すると、古くても手入れのされた部屋の心地良さ
真夏でも涼しく快適です。
昭和初期に造られたクラシカルな内湯と、小さな滝を見ながら長湯を楽しめる露天風呂。
そこに満たされる温泉の素晴らしさ…いつも身体に悪いと思いながら長風呂をしてしまいます。
そして食事。
派手さは無いが手の込んだ料理の数々。
特に敷地内の湧水で炊いた蘭越米は極上でした。
それ以来、殆ど毎年伺ってきたのです。
恐らく実際に体験しないと、この素晴らしい価値は理解できなかったでしょう。
私はこれがキッカケで温泉の魅力に取り憑かれていきました。

定山渓の山水は私が日帰りで一番多く通った温泉です。
定山渓随一、ホンモノの温泉です
循環もしない塩素も入れない加水もしない、手付かずのお湯が楽しめたのは定山渓ではここだけです。
一般的に透明と思われている定山渓の湯ですが、ここのはホンノリ緑色をしています。
風邪のひき始めのような、ちょっと体調が悪い時に入浴すると一発で治るのでかかりつけの病院のようなものでした。
一度だけ偶然ご主人と入浴したことがあります。
その際に聴いた内容が…
・先々代はポンプ技師で、円山に札幌温泉を作ったさいに定山渓へ呼ばれて来たのが始まり。
・その後、高山温泉から源泉を買い取り、宿を始めた
・その際、湯殿は著名な建築家に設計してもらった
話が盛り上がり、1時間以上話し込んだので、後半は残念ながら記憶がぼんやりしています。
できれば録音しておきたかった!とご主人に言った覚えがあります。
それくらい文献にもない、初めて聞くような定山渓の歴史話を色々と教えてくれました。
この宿がなくなって、こういった歴史も、歴史の語り部も消えていきます。
どちらの宿も歴史と文化を伝える本物の宿です。
北海道の宝物を失ったのです。
そして、我々はそれを体験することができなくなりました。
この2つだけではありません。
今、北海道の歴史ある素晴らしい温泉旅館がドンドン無くなっています。
歴史は無くなると、再現して創り出すことは不可能です。
日本各地の自治体で観光誘致フィーバーです。
しかし、生き残るのは歴史に裏打ちされた本物の資源だと思います。
もちろん「NEW」も大切ですが、歴史ほどの差別化要因は無いからです。
民泊に注力するより前に、やるべきことがあるように思います。